つぶしたり踏んだりベープなんとかを起動したりした覚えはないのに弱った蚊が寝室の床を息も絶え絶えに歩んでいた。
虫の息とはよく言ったもので虫が虫の息だともはや他に例える対象を思いつかない。
すこしして歩みを止めた蚊は糸くずのような足に辛うじて含まれていた力をふわりと抜き息絶えた。
彼の死因は結局のところ不明であるがそのへんのベチンと叩かれて死ぬ蚊よりは美しく、完成された死であった。
しかしかといって亡骸をそのままにしておくわけにもいかずせめてティッシュでやさしく包もうとその場を外し、ティッシュを持って戻ってきたらその姿はどこにも見当たらなくなっていた。
どこからが幻だったのだろうか。今度はこちらが弱ってしまった。